嘉暦のミルメーク騒動

 

 ※このネタは、以前、高遠彩華氏のHP『狭雲月記念館』の掲示板で、ミルメークが話題になった時、作って投稿したネタを改訂・増補したモノである。

 

 [註]

 [1]嘉暦の騒動:鎌倉最末期の嘉暦元年(一三二六)三月、執権北条高時の出家を契機として勃発した鎌倉幕府の内紛。史料が少ないため、歴史学界でも、いろいろな解釈がなされている謎多き事件。

 [2]ミルメーク:昔、小学校で給食の時、たまに出た、混ぜると牛乳がコーヒー牛乳になる魔法の粉。作者を含めた昔の小学生に大人気であったが、まったく知らない人もいて、地域差があったらしい。今はイチゴ味とかもあるらしいが、現在も給食に出てるかどーかは、作者は知らん。名古屋の大島食品工業株式会社が作っている。工場は名古屋市守山区にある。

 [3]みはる:高遠彩華氏が自作のマンガの中で命名した北条泰家の嫁の名前。史料的根拠は無い。

 

  では、はじまり、はじまり。

 

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  嘉暦元年(一三二六)三月十六日、北条泰家が兄(北条高時)の快気祝いから帰って来た。

 泰 家「ただいま〜」

 みはる「おかえりなさい、あなた」

 泰 家「ああ、ノドかわいた。牛乳飲も」

  泰家は冷蔵庫を開け、コップに牛乳を注いだ。

 泰 家「あれ? みはる〜〜、俺のミルメークは〜〜?」

 みはる「さっき、金沢貞顕様が執権就任のご挨拶に見えたので、

     一つお出ししたら、おいしいからって、お土産に全部

     持って行かれましたよ」

 泰 家「なに〜〜〜〜〜?! じゃあ、俺はミルメーク飲めないのか?!

     がまんならん! 出家する! 貞顕のヤツ! 殺してやる!

     南部(泰家の被官)! 伊達(泰家の被官)! 合戦の準備だ!」

  こうして鎌倉幕府を揺るがす一大騒動が勃発したのである。

 

  泰家は即座に出家を遂げ、金沢討伐の檄を飛ばした。

  泰家の武士団の幹部達は、主人の(執権就任を阻まれた)無念を思い、我も我もと出家し、坊主頭から湯気を立てながら、軍勢を率いて泰家邸に集結した。

  泰家邸周辺には三鱗の旗が林立し、完全武装の騎馬武者達が目を血走らせながら馳せ回った。鎌倉は、たちまち騒擾の巷と化した。

  高時・泰家の母である大方殿は、いち早く泰家邸に駆けつけた。

 泰 家「母上! 俺は貞顕が許せません!」

 大方殿「私もです! 我が得宗家を差し置いて、金沢如きが執権になるなど!」

 泰 家「執権? 何の話ですか? あの野郎は、俺のミルメークを・・・・・!」

 大方殿「は?」

 泰 家「だから、貞顕のヤツは、俺が毎日楽しみにしていたミルメークを

     残らず持って行っちゃったんですってばよ!」

 大方殿「??? なんだか、良くわからないけど、とにかく、がんばりなさい」

 

  その夜、幕府最高実力者、長崎円喜・安達時顕の両人は、事態に対処するため円喜邸で会合した。

 円 喜「やっぱり、まずかったの〜〜〜。泰家様を置いて金沢殿を執権にしたのは」

 時 顕「そうかな〜〜? なんか、俺は腑に落ちないんだよね〜〜〜」

 円 喜「何がァ?」

 時 顕「だって、金沢殿を執権にすることは昨日の夜に泰家様にお伝えしてた

     じゃない。今日の太守禅門(高時)の快気祝いの時も、ニコニコしてたよ、

     泰家様」

 円 喜「そりゃ、表面的には、そうじゃったけど、内心は・・・・・」

 時 顕「だいたい、あの人、執権なんかなる気、ぜんぜん無かったよ、前から」

 円 喜「でも、実際、怒ってるじゃないよ? 外、見てみろや。合戦寸前じゃん」

 時 顕「そ〜〜ね〜〜〜」

 

  金沢貞顕は驚愕し、泰家の怒りを解こうと何度も使者を送った。泰家の同母兄である得宗高時をはじめとする実力者達も和解のため奔走した。だが、事態の収拾はならなかった。

 

  三月二十六日、金沢貞顕は、ついに執権職を辞し出家を遂げた。在職わずか十日であった。

  しかし、それでも泰家は武装を解こうとはしなかった。

  万策尽き、隠遁を決意しようとしていた貞顕のもとに、その夜、みはるが訪れた。

 貞 顕「おお! みはる殿! 地獄に仏じゃ! 泰家殿への取りなしをお願いできない

     だろうか?」

 みはる「それは勿論ですが、貞顕様」

 貞 顕「うむ」

 みはる「貞顕様をはじめ、皆様は、夫が何でカンカンなのか、おわかりですか?」

 貞 顕「それは勿論、私が泰家殿を差し置いて執権職に・・・」

 みはる「違います。夫は執権職など眼中にございません」

 貞 顕「え?!」

  かくかくしかじかと、みはるから泰家の怒りの真の理由を聞いた貞顕は、弾かれたように立ち上がった。

 貞 顕「盛久(貞顕の被官)! 盛久! すぐに尾張の大島荘に早馬を送るのじゃ!

     最高級のミルメークを手に入れろ!」

 

  三月二十八日、泰家邸。

 泰 家「ただいま〜〜〜♪」

 みはる「おかえりなさい、あなた」

 泰 家「貞顕がミルメーク、いっぱいくれた〜〜〜!」

 みはる「よかったですね」

 泰 家「お〜〜! いいやつだな〜〜! あいつ! コーヒーだけじゃなくて、いろんなの

     あるから、一緒に飲むべ〜〜〜!」

 みはる「はい、はい。でも、うがいをして、手を洗ってからにしてくださいね」

 泰 家「お〜〜〜!」

  みはるは、牛乳とコップを二つ取りに台所に向かった。

  かくて危機は回避されたのである、となん語り伝えたるとや。

 

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(2009/03/24掲載)