発表講座

 

 「発表講座」と、エラソーに言う程のことでもないですが、てめェが学会・研究会などで発表(研究報告)をやる場合に気をつけてることを書きます。

 

○[発表の目的]

 自分が言いたいこと(結論)を他人様に正確に伝え、それに対し、アドバイス・批判をしてもらう。

 自分がその発表で何を言いたいのかを、しっかり自覚し、それが正確に相手(聞いてくれる人)に伝わるように、発表の仕方・レジュメ(発表の時に配るプリント。史料だけ並べたのが「史料レジュメ」、史料以外のことまで書いてあるのが「文章レジュメ」)の構成などを工夫する。  ナントカ学会大会のようなイベントは、公式行事であり、記録が残り、業績として世間に評価されるので、結論は「学説」となるレベルのものでなければならない。

 内輪の研究会・勉強会なら、上記のような最高レベルのものでも良いし、たとえば、卒論作成のために、

「今、ここまでやって、こんなふうに持って行きたいのだが、いかがでしょう?」

 でも良い。ただし、この場合でも、自分の結論を持っていることは当然のことである。それが無いのなら、はじめから、やるべきではない。聞く人をバカにしている。

(ちなみに修士論文は、最低限、雑誌論文レベルの内容でなければならない。雑誌論文にできない「修論」は、例えそれで単位になったとしても、それは本来の修論ではない。そんなものを通す大学がアホ大学であることをさらしているに過ぎない)。

 

○[構成]

 論文と同じである。

 「はじめに」で、その発表が何を明らかにしようとしているかを明示する。

 次いで、先行研究(学説史)をまとめ、その発表の研究史上の位置を示す。

 先行研究では、何が何処まで明らかになっているのか、何が足りないのかを話し、その発表が研究史の中で、どのような位置になるかを理解してもらう。

 そして本論に入り、たんたんと史料に基づいて実証する。

 最後に、結論を述べ、その結論が大きな研究史の中でどのような位置付けになるのか、今後の展望などに触れて、終了。

 

○[レジュメ]

 史料レジュメでも文章レジュメでも良いが、基本的に、そのまま論文にした場合の章立てになるようにした方が良いと思う。

 話す順番に史料を並べる。

 史料レジュメであれば、そのまま史料間に解説を付ければ、論文になってしまうようなものが良い。また、その方が、論文を作る時に楽である。

 個人的には、レジュメができてしまえば、論文はできたようなものだと思っている。

 

 ただし、発表は時間が限られているので、前の史料に戻ってたりすると、聞く方は、ごちゃごちゃするので、発表の構成上、同じ史料を複数回使用するなら、そのたびに同じ史料を提示するのも、テクニックの一つである。聞く方は、レジュメを何度も行ったり来たりとめくっているうちに訳がわからなくなるものである。

 このへんは、雑誌論文と違う気配りが必要である。

 

○[発表時間と発表内容]

 発表は時間が限られている。

 ナントカ学会大会のようなイベントであれば、発表20分OR25分、質疑10分OR5分、内輪の研究会で発表1時間、質疑1時間程度が目安であろう。

 その時間内で、相手に伝えられること(結論)は、1つか、せいぜい2つである。

 せっかくのチャンスだからと言って、欲張ってはならない。

 いろいろなことを言っても、相手が理解してくれないのでは意味がない。

 

○[テクニック]

 発表でも論文でも、目的は、自分の主張を相手に正確に伝え、理解して納得してもらうことである。

 つまるところ、「説得の技術」である。

 そのために駆使すべき技術としては、

 

  1. 聞こえなければ、意味が無いので、でかい声でしゃべる。滑舌を良くする。
  2. マイクがあっても、基本的に同じ(マイクの声が割れる程では逆効果ではあるが)。

     

  3. 400字詰原稿用紙に換算して、一枚一分がべしゃりの相場とされているが、相手に考える時間を与え、こちらの言わんとすることを理解してもらうには、一分半乃至二分と考えた方が良い。よく文章レジュメを、ただ早口に読むだけの人がいるが、こーゆーのは、発表したという事実を作ろうとしているだけの、バカ者である。
  4. 「史料Gを御覧ください」

     と言っておいて、聞いている側が史料Gを探しているうちに、次の次の次の話に移っている。最悪の大バカ野郎である。

     発表者は、どうしても焦るので、意識してゆっくり話すべきである。

     

  5. 文書史料はレジュメに全文載せるのが基本。史料全体の構成がわからないと無用な誤解を受ける。異常に長文の場合も、なるべく全文を載せ、必要箇所にラインを引いた方が良い。記録・編纂物も必要箇所の前後をなるべく引用する。
  6.  前後の文脈から、思わぬ指摘がなされることがある。

     

  7. レジュメに引用した史料を、発表者が音読でき、内容を理解していることは、当然の前提である。「読んでみろ」と言われて、読めないようなら、そこで全てはおしまいである。
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  9. 史料を読む場合は、特に意識して、ゆっくり読む。相手が、ついて来れるようでなければならない。
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  11. レジュメの史料に一・二点などを振る必要は基本的にない。
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  13. 話を聞きながら、レジュメをめくって行き、「ふむふむ」と納得しているうちに発表が終了するのが、良い発表である。そうなるように、レジュメの構成とべしゃり方を工夫するべきである。
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  15. 基本的に漫才や落語をやるのと同じである。

 

○[追加]

 レジュメに載せる表・グラフ・地図などは、発表の内容を正確に伝えることを補助するものでなければならない。

 ただ、いっぱいあるだけの無意味なものは、資源のムダ使いなだけである。

 最近、表の作成が楽になったため、やたらに表ばかり多く、結論が、

「それだけ?」

という発表が多くなった。困ったもんである。

 必要最低限で良い。

 

 ただし、内輪の研究会で、

「こんなの作っちゃいました。すごいでしょう?」

 と自慢したいのであれば、それはけっこーなことである。

 みんなに見てもらうことによって、工夫すべき点などを指摘してもらえるし、見せられた方にも刺激になるので一石二鳥である。


(2008/08/31掲載)