『徒然草』四十段「因幡国に」

 

 [原文]

  因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまたいひわたりけれども、この娘、ただ栗をのみ食ひて、更に米のたぐひを食はざりければ、「かかる異様のもの、人に見ゆべきにあらず」とて、親、ゆるさざりけり。

 

 [現代語訳]

  因幡国の「何とか入道」とか言う者の娘は、美人だという噂で、たくさんの人が求婚したけれども、この娘は、ただひたすら栗ばっかり食べていて、ぜんぜん米を食べなかったので、

 「こんな不気味な娘は、とても人に嫁がせられるものではない」

  と言って、親は決して許さなかった。

 

 [コメント]

  一部の国文学研究者は深読みして妙な解釈をいろいろしているが、虚心に読めば、偏食の女の子と、それに悩む父のお話。


(2008/10/28掲載)